第四期(2017-2019年度)共同研究

1. 『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』

共同研究の目的

『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』全5巻のうち、21世紀COEプログラムにおいてVol.1/ Vol.2を、センター第一期共同研究においてVol.3刊行した。
本研究の目的は、完訳版全5巻を刊行することである。これをとおして、海外において、歴史・民俗学・人類学・文学など、様々の分野の方々が日本の「常民生活」のあり様を参考にしてくれることを期待している。

共同研究の分担

研究代表者 ジョン・ボチャラリ
共同研究者 鈴木陽一
研究協力者 何彬、 君康道、 徐東千、 中井真木、 李利

2. 絵画・版画・写真に見られる19世紀ヨーロッパの都市生活

出典:Wikimedia Commons

共同研究の目的

19世紀に作成された絵画・版画・写真のなかで同時代のヨーロッパの代表的な数都市の生活ぶりがどのように描き出されているのかを分析していく。

多くのヨーロッパ都市は、この世紀の半ば頃から、それまで大なり小なり受け継がれてきた形状を捨てて、大きく変貌していった。同時代の視覚媒体は、それらの都市に暮らした人々の生活ぶりをどのように描き出していたのか。(1)同一都市の変貌前と変貌後の対比、(2)各都市間の対比、という二つの観点から画像資料の分析を進めていきたい。

第四期には主として、「広場」をとりあげたい。広場は、革命に象徴的なように民衆が集い、意思が表明される政治空間であると同時に、商業や祝祭の特権的な空間であり続けている。広場の意味を都市論・社会史の文脈から考察してきた研究は多いが、(1)ヨーロッパの各都市を横断し、(2)都市改造も視野に入れて広場の変容を追い、(3)単なる証言にとどまらない機能をもつ、写真という新しいメディアによる都市表象も組み入れる、という点で独創的な研究計画となるだろう。

共同研究の分担

研究代表者 熊谷謙介
共同研究者 小松原由理、鳥越輝昭、ステファン・ブッヘンベルゲル
研究協力者

3. 第二期『東アジア生活絵引(中国江南編)』編纂のための基礎作業

蘇州郊外石湖の橋

共同研究の目的

COEにおける『東アジア生活絵引――中国江南編』の編纂作業を踏まえ、新たに第二期『東アジア生活絵引――中国江南編』の編纂を目指し、そのための基礎作業を行う。具体的には、台湾所蔵の院本『清明上河圖』(乾隆期)と『姑蘇繁華圖』の比較を軸に、康煕、乾隆の南巡図なども視野に入れ、資料の収集、画面の選定、絵引きの対象とする事物、事象、行動の絞り込みなど十八世紀中国江南の絵引き作成のための基礎作業を行う。

なお、図像読み取りの資料として、欧米文化の影響を受けた十九世紀の図像資料と、新聞、雑誌に見えるキャプション入りの図像の蒐集、整理、読み取りを並行して行う。

共同研究の分担

研究代表者 鈴木陽一
共同研究者 中林広一、松浦 智子
研究協力者 陳小法、山口建治、吉川良和、王京、王子成

4. 日本近世生活絵引-行列から見る都市生活空間-

「薩摩風土記」に描かれた鹿児島城下の様子(琉球館の部分)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション

共同研究の目的

日本の近世は参勤交代・朝鮮使節・琉球使節等の行列が定期的に列島を往来する「行列の時代」であった。鹿児島大学附属図書館所蔵の「琉球人行粧之図」・「琉球人往来筋賑之図」は、1850年の薩摩藩主の参勤交代および琉球使節の行列の様子と往来にある江戸・大坂の街並みを、同行の薩摩藩士が描いたもので、近世人の生活の一部であった「行列および行列を迎える都市空間の様相」を分析・研究し得る好素材であると同時に、近世日本生活絵引の奄美・沖縄編・南九州編の研究蓄積を発展的に継続し得る貴重な素材でもある。本研究では、この図を用いて日本近世生活絵引「行列から見る都市生活空間編(仮題)」を作成することを目的とする。また必要に応じてその他の行列図の絵引化も検討する。

共同研究の分担

研究代表者 小熊誠
共同研究者 駒走昭二
客員研究員 渡辺美季、富澤達三
研究協力者 得能壽美、小島摩文、橋口亘、上原兼善、高津孝、 丹羽謙治

5. 東アジア開港場(租界・居留地)における日本人の諸活動と産業

共同研究の目的

19世紀末から20世紀前半に至るまでの東アジア開港場(租界・居留地)には、欧米諸国と日本の領事館、ホテル、石油会社、学校施設、競馬場、百貨店、紡織会社、病院などの各種施設がおかれ、各国はその勢力の拡大を目指し、衝突と協力を繰り返していた。今回の第4期の研究は、従来の先行研究が蓄積してきた東アジア開港場(租界・居留地)に関連する制度史研究を基礎にしながら、これら各種施設の相互関連を産業ネットワークという視点から接近することにしたい。その資料としては、各国政府と租界の行政機関が残している大量の行政文書(日本外務省外交史料館、上海市檔案館、台湾中央研究院)や各種施設の建築に関連する図面(上海市建設檔案館)、各施設の年次報告(市政報告、工部局年次報告)の他にこれらの施設を文明開化の象徴として宣伝した各種の新聞(North China Herald、申報)、雑誌(Far Eastern Review、『支那事変画報』、『良友』、『写真週報』)、絵葉書(神奈川大学非文字資料研究センター所蔵の近藤恒弘コレクション)、写真集などに含まれる大量の非文字関連資料を発掘、活用する。

共同研究の分担

研究代表者 孫安石
共同研究者 内田青蔵、村井寛志、彭国躍、中村みどり、菊池敏夫、大里浩秋、須崎文代
研究協力者 冨井正憲、栗原純、田島奈都子、齋藤多喜夫

6.近代沖縄における祭祀再編と神社

首里城正殿 沖縄神社

共同研究の目的

近代日本は1895年の下関条約で獲得した台湾を皮切りに、拡大した植民地に海外神社を創設させていった。その海外神社創設や宗教支配のいわば前史として、沖縄や北海道での宗教政策や神社政策が存在している。近代沖縄における神社や宗教政策を見ることで、海外神社の意味がより具体的に浮き彫りになると考えら れる。

明治政府は1872(明治5)年に琉球国王の尚泰を琉球藩王に封じ、さらに 1879(明治12)年には琉球藩を廃止、沖縄県を設置した(「琉球処分」と呼ばれる)。琉球国では聞得大君と呼ばれる女神官を頂点とした女神官が担った琉球国 独自の国家祭祀制度(国王の長寿や国家の安泰を祈願した)が存在していた。他方で、琉球八社(官八社)と呼ばれる日本系の神社が王府と直接的に結びついていた。また、琉球国は明・清の冊封体制に参加していたため、冊封体制を支えた 儒教もまた社会へ深く浸透していた。

新しく設置された沖縄県は、祭祀においても他県とその前史が異なっていた。冊封体制に参加していたという点では、朝鮮と共通している。沖縄県を設置した明 治政府はかつての琉球国の祭祀制度を再編していくことになる。琉球の固有の祭 祀の再編、前近代から存在する日本系神社の活用、県社など新しい神社の創建な どを具体的に行っている。

海外神社と異なり、これらの「宗教施設」の多くは現在でも信仰の対象なっている。また、その歴史的背景や基盤も異なっていることもあり、近代における沖縄の神社、寺院、御嶽などの総合的な研究は存在しない。また、沖縄戦による断絶などもあり、利用できる文字資料も少ない。そのため非文字資料という視点からのアプローチは、近代日本の「内地」と「外地」の接点である沖縄の戦前から戦後の変化を、「宗教施設」を通して具体的に提示できるもので、多様な研究が期待できる。

尚、共同研究の対象は琉球・沖縄とするが、海外神社の前史と言う問題意識からもCOE時代からの海外神社研究も副次的に継続する。特に、これまでの成果をデータベース(新に「海外神社跡地」のデータベースを構築する)や出版(写真集やこれまで出された共同研究論文の出版・論文集)と言う形で発信する。

共同研究の分担

研究代表者 後田多敦
共同研究者 小熊誠
客員研究員 津田良樹、中島三千男、前田孝和、菅浩二
研究協力者 稲宮康人、渡邊奈津子、レリソン・エドワール

7.中世景観復元学の試み一北九州市若松区の惣牟田集落を事例として一

共同研究の目的

本研究では、非文字資料学の一研究領域である景観・環境の研究として、中世ないしは近世初期ごろまで遡ると考えられる北九州市若松区の惣牟田集落の景観の実態調査及び復元に向けての共同研究を進める。調査対象とする惣牟田集落には、現在でも中世の典型的な谷戸田の地形をはじめ、茅葺き屋根を持つ家屋(現在はトタンで覆われている)や家屋を支える古い形の石積みなどが現存しており、中世の景観を復元するための研究対象として必要不可欠な条件が整っている。

さらに、惣牟田集落には、黒田孝(よし)高(たか)(如水・官兵衛)の二十四騎の一人である竹森石見次貞の子清左衛門貞幸の墓石があり、また、若松で最高峰の石峰山を祀る「石峰神社」へ通ずる鳥居や参道が設けられ、集落に沿った別の山道を登り切った三叉路には「山神」や他の石仏が祀られているなど、集落と信仰が結びついた景観が保持されている。そのため、地形、家屋、信仰などを対象とする学際的な研究が可能であり、非文字資料研究に中世景観復元学という新たなジャンルを構築することができる。

共同研究の分担

研究代表者 田上繁
共同研究者 佐野賢治、昆政明、内田青蔵
客員研究員 三笠友洋
研究協力者 若宮幸一、萬井良大

8.非文字資料研究のコミュニティにおける知識とサービスの効率的な検索と安全安心な流通研究

会津只見民俗資料調査カード

共同研究の目的

《知識とサービス、物の流通と価値交換》

非文字資料を研究者間および一般ユーザと知識、サービス、資料をやり取りするためにゲーム理論によりモデル化を行う。また、ビットコインで注目されている自立分散的に事象や価値の移転を記録するブロックチェーンの技術を用いて安全安心な価値交換を行うシステムを構築する。

《知識とサービスの検索とマイニング》

非文字資料のデータベースや研究者が資料を検索する際に、作業の流れであるコンテキストの一面に着目して情報の類似度などに基づいてファイルの自己組織化などによりユーザに対して最適な情報を提示する。

《個人情報や重要情報、著作権の管理》

ブロックチェーンを用いたアクセス履歴管理をおこなうおことで個人情報に対するハイパーグラフを用いた推論攻撃検出の実装を容易にする。また、ブロックチェーンによる価値移転により著作権管理を効率的に行う方法を提案する。

共同研究の分担

研究代表者 木下宏揚
共同研究者 能登正人、佐野賢治、森住哲也
客員研究員 宮田純子
研究協力者 小松大介

9. 戦時下日本の大衆メディア研究

『親心子心』岡田八千代原作 ; 西正世志絵画.

共同研究の目的

この研究は、近年日本近現代史研究においても、広がりを見せている戦時下大衆メディアを対象に、そのプロパガンダの機能などを通して、戦時下大衆文化の構造を検証し、戦時体制の特質を再検討することにある。具体的には、非文字資料研究センターに収蔵されている「国策紙芝居」資料の分析を軸に、未発見の紙芝居資料の発掘に努めるとともに、未だ不十分である大衆文化の分析視角の共有化を進めることにある。第四期では、第三期におけるセンター収蔵作品の「解題」分析、全国における戦時下紙芝居の収蔵分布状況、その地域ごとの担い手の特徴、そして特に台湾調査を通して見えてきた植民地紙芝居の実像解明などの成果を継承しつつ、より広い視野で共同研究の深化を図りたい。たとえば第一に、国内においては、拠点の一つであった北海道などでの実態、各地で活動した担い手の解明などの課題がある。第二には台湾で着手した植民地紙芝居の分析を、同時代の朝鮮や中国などにも拡張すること。このテーマについてはそれぞれの地域の紙芝居研究者の存在や資料状況についても少しづつ判明しつつあり、協業の可能性も考えられる。こうした東アジア規模での比較紙芝居研究は今後の重要な課題となるものと思われる。そして第三には、国内だけでなく東アジアにおいても、上からの戦時宣伝の力と土着の文化との相克という視点が重要であり、この観点は同時代の映画・流行歌・演劇(芝居)・写真・漫画などとの関係が浮かび上がってくるテーマであろう。また第三期の研究過程で、アメリカやカナダにも紙芝居研究者がおり、すでにすぐれた著作が刊行されていることもわかってきた。第四期ではこうした海外の研究者との連携を積極的に推し進め、戦時下大衆文化の国際的視野の拡大を展望したいと考えている。

共同研究の分担

研究代表者 安田常雄
共同研究者 大川啓
客員研究員 大串潤児、森山優
研究協力者 小山亮、新垣夢乃、松本和樹、原田広、鈴木一史