研究活動の紹介

研究活動の紹介

21世紀COEプログラム「人類文化研究のための非文字資料の体系化」においては、「図像」、「身体技法」、「環境・景観」の三つの事象に関する資料化、解析法の開拓、成果の発信に大きな成果を挙げることができた。

非文字資料研究センターは、21世紀COEプログラムの内容を継承・発展させるとともに、当初計画で目標に掲げながら達成せずに残した課題の実現を目標として、共同研究活動を推進している。

共同研究

第1班 『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』編纂共同研究

第1班 『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』編纂共同研究

マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引

共同研究の目的

 『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』全5巻のうち、21世紀COEプログラムにおいてVol.1/ Vol.2を、センター第一期共同研究においてVol.3を刊行した。その後、2018年3月に第4巻本文編(英語)を刊行した。本研究の目的は、3年後を目途に、完訳版全5巻を刊行することである。この編纂事業を通して、歴史学・民俗学・人類学・文学など、様々な分野の方々が全5巻の完訳本に収められた日本の「常民生活」のあり様を研究の参考にしてくれることを期待している。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(客員研究員) ジョン・ボチャラリ
研究員 小熊誠
第2班 世紀転換期ヨーロッパのメディア・身体・ジェンダー

第2班 世紀転換期ヨーロッパのメディア・身体・ジェンダー

ウィーン工房デザイナーのヴァリー・ヴィーゼルティア

マジョリカ・ハウス(オットー・ヴァーグナー)

共同研究の目的

第5期のポピュラー・カルチャー研究を進める中で、20世紀初期の身体表象を考えるためには、絵画や写真などの図像資料や、演劇・舞踊・映画など身体技法が中心となる資料だけでなく、デザインやポスター、ファッションなど、より多様なメディアを見ていく必要へと至った。2023年度以降の研究では世紀転換期に時代をしぼり、このように複数のメディアが相関するような文化現象(例、シャ・ノワールなどの文学キャバレー)を、文字資料と非文字資料との関係から解明することを狙う。こうした文化現象については、既存の研究分野の周縁、あるいは分野を超える位置にあるため十分な分析がなされてこなかった。本研究ではこれを、身体表現とジェンダーという問題を中心にして考察する。地域としては、ドイツ・フランスだけでなく、両国に関係の深いオーストリアも対象に含み込むことで、世紀転換期の文化・芸術の潮流のダイナミズムを浮かび上がらせるような展開を目指している。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 熊谷謙介
研究員 ステファン・ブッヘンベルゲル、角山朋子
客員研究員 小松原由理、田中里奈
第3班 東アジア開港場(租界・居留地)における都市の発展と建築調査

第3班 東アジア開港場(租界・居留地)における都市の発展と建築調査

共同研究の目的

東アジア開港場(租界・居留地)を巡った日本人の諸活動については、いままで上海を中心とした日本人居住地域を選定し、研究活動を展開してきたが、2023年度以降は、上海の他に青島と広州を加え、華北、華中、華南の都市発展と租界の建築を比較検討する視点を確保したい。とくに青島では中国海洋大学、広州では広州外語外貿大学の協力を得て、調査を実施したい。いままでの共同研究で発掘できた日本外務省外交史料館、上海市檔案館、台湾中央研究院の資料、各種の新聞(North China Herald、申報)、雑誌(Far Eastern Review、『支那事変画報』、『写真週報』)、絵葉書(非文字資料研究センター所蔵の近藤恒弘コレクション)、写真集なども引き続き活用する。そのほか、2022年に寄贈いただいた川合安平氏旧蔵の上海写真資料の活用と叢書刊行「中国の文化大革命ポスター」(2024年2月予定)の企画も継続して進める。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 孫安石
研究員 内田青蔵、村井寛志、彭国躍、須崎文代、姜明采
客員研究員 菊池敏夫、大里浩秋
研究協力者 冨井正憲、田島奈都子、包慕萍
第4班 近現代日本の祭祀空間と海外神社

第4班 近現代日本の祭祀空間と海外神社

共同研究の目的

本研究は、近現代日本の神社や沖縄の御嶽などの祭祀空間、そして海外神社跡などの環境・景観を対象とし、日本の信仰や祭祀と空間やその再編、周辺地域とのかかわりなどを明らかにすることを目的とする。この研究は、COE時代からの海外神社研究の成果を受け継ぐもので、今期は首里城(かつて沖縄神社が建立されていた)の祭祀空間やその再編のテーマを軸に進めたい。首里城は2019年の火災を受け、正殿などの復元整備がなされるため、空間再編の現代的な事例としてアプローチする。また、沖縄神社や首里城だけでなく、境界や海外神社への関心から他地域の祭祀空間も視野に入れながら事例を積み上げたい。非文字資料を中核としつつ、基礎的な文献資料の収集整理を踏まえ、現地調査や写真・図像と併せて活用し、文字資料と非文字資料の立体的重層的な分析にも取り組みたい。また、これまで蓄積されてきた「海外神社データベース」のリニューアルも進める。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 後田多敦
研究員 小熊誠、角南総一郎、丸山泰明、道用大介
客員研究員 坂井久能、津田良樹、中島三千男、前田孝和、菅浩二、加治順人、加藤里織、嵯峨井建
研究協力者 稲宮康人、松山紘章、伊良波賢弥
第5班 非文字資料の研究とその成果の利用の過程における検索とマイニング、セキュリティ、著作権管理に関する研究

第5班 非文字資料の研究とその成果の利用の過程における検索とマイニング、セキュリティ、著作権管理に関する研究

共同研究の目的

非文字資料の研究とその成果の利用の過程における情報の体系化と検索、新しい知見の発見およびセキュリティの確保と著作権の管理に機械学習やブロックチェーン技術などを適用し、研究者と利用者を支援するための基盤技術を構築する。

  1. 画像などのコンテンツを識別するための固有の情報の知覚ハッシュに基づく著作権管理システム
  2. 画像への電子透かしやステガノグラフィにおいて画質と耐性を両立した手法の構築
  3. 情報を体系化し関連付けを行うためにオントロジーとトピックモデルなどを組み合わせた検索手法や論文推薦システムや新しい知見の発見支援手法の構築と年報などの研究成果の動向の視覚化
  4. アクセス権の矛盾や情報間の推論に起因する情報漏洩を防止するためにトピックモデルを用いて非文字資料の文書間の関連性を抽出しアクセス制御に適用
  5. テクストに内在する潜在性を確率論的アプローチと決定論的アプローチの関連から捉える概念装置の研究

研究期間 2023~2026年度(4年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 木下宏揚
研究員 細野海人
客員研究員 佐野賢治、宮田純子、森住哲也
研究協力者 小松大介
第6班  戦時下国策紙芝居と大衆メディアの研究

第6班  戦時下国策紙芝居と大衆メディアの研究

『銃後の歩調/銃後的脚歩』台湾紙芝居協会(梁志忠氏所蔵)
台湾での「日本語世代」の方へのインタビューの様子

共同研究の目的

本班は、2014年度の発足後9年を経過する。この間、『国策紙芝居からみる日本の戦争』(勉誠出版、2018.3。以下『国策』)、『国策紙芝居-地域への視点・植民地の経験』(御茶ノ水書房、2022.3)の単行書を刊行したほか、『非文字資料研究センターNews Letter』の各号(別冊とも)に、海外(台湾)を含む約30地点の地域調査状況、および紙芝居作品(用語や人物など)研究報告(連載中)を掲載してきた。『国策』では櫻本富雄コレクション240点の紙芝居解題を行ったが、その後の各地調査において約270点の紙芝居が発掘されており、これらをまとめた『国策』続編を刊行することが課題となっている。続編には、新たな作品解題とともに、研究員による論稿数点、全国書誌の改訂版を掲載予定である。2023年度以降は、恒常的な調査・研究活動を基礎に、続編の刊行とともに、2022年度に研究交流協定を締結した国立台湾歴史博物館との連携により植民地紙芝居の研究を深めていきたい。これらの研究をもとに、2~3回程度のシンポジウムを開催し、成果を公開していく方針である。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(客員研究員) 安田常雄
研究員 大川啓、新垣夢乃
客員研究員 大串潤児、森山優
研究協力者 小山亮、松本和樹、原田広、鈴木一史、富澤達三、邱昱翔
第7班  海とみなとの運河研究―横浜とアジアの運河

第7班  海とみなとの運河研究―横浜とアジアの運河

中華街西門と埋め立て前の派大岡川
万国橋からマリーンタワーとクイーンの塔の方面を見る

共同研究の目的

 本共同研究は、江戸時代から明治時期、そして、昭和時代を経て急変した横浜の海辺と運河の変容を、歴史学、建築学、人文地理学などの視点から究明することを目的とする。具体的には、

  1. 本学の建築学科高木幹朗研究室が記録した1970年代の横浜臨海部の写真資料をもとに横浜の水辺と運河の変容について運河と建築の変化さらにはそれに付随した漁業、港湾労働者、環境の変化など環境と景観の変化をもとに検討していく。
  2. 横浜絵(錦絵)を通じて江戸末期から明治初期の横浜の運河がどのように描かれていたのか。そして、戦前期の横浜の運河の写真などとも比較検討する。
  3. 横浜の運河の変化を中国の江南地域(上海)、朝鮮半島(ソウル、釜山)、台湾(台北)などの地域と比較検討する視点についても注目する。近代化の大きな波の中でアジアの大都会として発展する横浜、上海、そしてソウルなどの海辺と運河が人々の生活、産業、環境に与えた影響について図像資料を基に考えたい。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 内田青蔵
研究員 孫安石、山口太郎、中林広一、姜明采
研究協力者 松本和樹、金丸壽男
第8班  近現代日本の宿〈ヤド〉の体系化に関する研究

第8班  近現代日本の宿〈ヤド〉の体系化に関する研究

スキー旅館になった峠の宿場町の宿(昭和40年過ぎ頃撮影)
横手市の駅前旅館跡(1976.8)

共同研究の目的

日本における旅の大衆化は、街道と宿場が整備された江戸時代にその原型を認めることができる。近世の宿場機能や宿の種類などについては、ある程度まとまった研究成果の蓄積があるが、近代以降の宿については、西洋式のホテルの登場や展開について多少の成果があるものの、近世からのシステムの継承や変化を含めた体系的な研究はほとんどなされていない。鉄道の駅や、海外航路の発着点となった港などは、近代以降新たに形成された旅の拠点であり、そこに特徴的な宿泊設備が置かれていたが、その実像についても十分に記録されないまま、すでに姿を消したものが多くある。
本研究班では、近現代における日本の宿について、図像資料や体験談などの非文字資料から基礎的な情報を収集し、種類、立地、機能、特徴、変遷などを整理することをとおして、その全体像と構造的な把握を目標とする。また日本国内のみならず、近現代において日本人の海外での活動を支えた宿も視野に入れ、人の移動のダイナミズムを宿との関係から明らかにすることを試みる。

研究期間 2023~2026年度(4年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 山本志乃
研究員 丸山泰明
客員研究員 川島秀一、松田睦彦、趙怡、常光徹
研究協力者 岡田伊代
第9班 芸術表現における声と身体をめぐる基礎的研究―舞台芸術・古典芸能・現代美術

第9班 芸術表現における声と身体をめぐる基礎的研究―舞台芸術・古典芸能・現代美術

三代歌川豊国画「六歌仙」 
三代豊国画「豊国漫画図絵 忠信利平」

共同研究の目的

このプロジェクトは、2022年度【準備C班】「芸術表現における声と身体をめぐる基礎的研究―舞台芸術・古典芸能・現代美術」の発展的延長線上に位置づけたものである。2022年度の活動においては、現代演劇や薩摩琵琶など、いずれも実演者を招聘した講演を企画し、そこから多くの知見を得ることができた。新たに迎えたメンバーも含めて、こうした知見を共有しつつ、それぞれの問題関心・専門性をクロスさせることで、ひきつづきパフォーマンス(歌舞伎、近代劇、舞踊、落語、映画、現代美術ほか)における身体技法に照準をあわせ、とりわけ「声と身体」に特に注目した研究を多角的に展開していく。
このプロジェクトでは、いわゆる「生のパフォーマンス」にくわえ、それらの記録資料(紙・映像媒体)なども視野に収めながら、近代日本におけるさまざまな「声と身体」が、歴史やジャンルの制約/可能性の中でどのように表現/受容されたか、調査・分析・考察を行う。

研究期間 2023~2025年度(3年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 松本和也
研究員 藤澤茜、水川敬章
客員研究員 後藤隆基
第10班 非文字資料を問い直す―非文字資料をめぐる可能性と課題

第10班 非文字資料を問い直す―非文字資料をめぐる可能性と課題

 

共同研究の目的

本研究班では、非文字資料そのものを対象として、それを捉える視点の共有を図ることに目的を定める。本センターは20年にわたる活動実績を持つが、今なお非文字資料に関する定見を得るには至っていない。その理由としては、その定義や研究範囲・研究方法等の明確化が困難である非文字資料そのものの性質が挙げられ、また非文字資料に対して個々の研究者の間で生じている理解のズレも重視される。
本研究班では、こうした現状に鑑み、改めて非文字資料とは何か問い直し、そこでの議論を通じて参加者間の理解を照らし合わせる機会を設けることとしたい。作業は非文字資料にまつわる理解の精緻化をもたらし、また従来手のつけられることのなかった領域へと研究が進展することも期待される。
以上の目的の下で本研究班は活動を行うが、具体的には研究会の場にて研究員間での議論に加えて、積極的に講演会の企画・運営を行う予定である。多様なテーマ・トピックによる講演会を開催することで、参加者の間で充実した議論がなされ、非文字資料に対する知見の共有とその深まりが見込まれる。

研究期間 2024~2025年度(2年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 中林広一
研究員 熊谷謙介、後田多敦
準備班 中国の生活・文化と身体表現

準備班 中国の生活・文化と身体表現

共同研究の目的

本研究班は、中国の社会・文化に対する理解の深化を目的とし、身体表現に焦点を当てた研究を行うべく、その立ち上げを予定している。身体の様々な部位を用いてなされるしぐさ、あるいは身体より発せられる音声は、地域や時代に応じて多様なスタイルを持ち、またそうした身体表現に含まれる意味も大きく異なる。日常生活から小説・演劇のような創作物・文芸に至るまで、様々な素材に身体表現は見て取れるが、そこには当該社会にて共有される感情・価値観・ルールが根底に潜んでいる。そして、それらを読み取る作業は中国の社会・文化を理解するための有力なアプローチとなるだろう。本研究班では、小説・演劇・絵画・写真など各種の素材を通じて、身体表現への理解を進めることとする。なお、研究対象は13世紀から20世紀前半と定めるが、これは各分野・領域において庶民レベルの内容を反映させた資料の利用が、この時期から可能になるためである。

研究期間 2024年度(1年間)

研究班メンバー

班代表(研究員) 松浦智子
客員研究員 大木康、吉川良和、樊可人