第一期(2008-2010年度)共同研究

基幹共同研究

1. 非文字資料研究ネットワーク形成研究

この共同研究の目指すところは、非文字資料研究センターが中核となって、非文字資料に関する世界的なネットワークを形成し、世界各地で非文字資料研究を展開する研究者を糾合して、非文字資料に関する共同研究を実施することにある。しかし、この目標は言うは易く行うは難しの典型的な課題と言える。日本における非文字資料研究の諸分野・諸方法については、

21世紀COEプログラムの研究事業の成果としてある程度展望できるところまで達したが、世界各地における非文字資料研究の状況や各地・各文化における非文字資料研究の特色や相違は必ずしも明確になっているわけではない。COE段階において世界各地の研究機関と提携関係を結び、情報の交換、研究者の交流を進めたが、世界的な動向把握にいたらなかった。

以上の状況での基幹共同研究の発足である。したがって、必然的に、世界的な共同研究を展開するための準備研究が第一期の内容となる。その達成目標は以下の事項として考えられる。

  1. 世界各地における非文字資料研究の状況を把握、分析し、今後の方向を展望すること。
  2. 世界各地の非文字資料研究を展開する研究機関を網羅的に把握し、その中から重要な研究機関と情報交換関係を形成すること。
  3. 世界各地の非文字資料研究を行う研究者を把握し、研究協力者として組織し、具体的な課題について国際的共同研究を開始すること。
共同研究の目的

『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』全5巻のうち、21世紀COEプログラムにおいてVol.1/ Vol.2を、センター第一期共同研究においてVol.3刊行した。本研究の目的は、3年後を目途に、完訳版全5巻を刊行することである。これをとおして、海外において、歴史・民俗学・人類学・文学など、様々の分野の方々が日本の「常民生活」のあり様を参考にしてくれることを期待している。

共同研究の分担
研究代表者 福田アジオ
共同研究者 大里浩秋、小熊誠、金貞我、的場昭弘
研究協力者 富沢 達三、 中町 泰子

2. 地域統合情報発信の開発

共同研究の目的

21世紀COEプログラムのひとつとして、福島県奥会津の只見町と提携し、その地域にある生活・文化・歴史・自然にかかわる情報を統合して、ネット上に発信しようという試み取りに組んできた。小さな町とはいえ、そうした情報は、無限大といっていいほど存在している。
21世紀COEプログラムでは、その一部しか発信できなかった。そこで、センター設立後も継続して取り組むことにした。

さしあたり、すでに収集済みの資料群(本年度は、作業工程記録カードを中心とする資料)を、只見町エコミュージアムのページに組み込む作業を開始した。今後の課題としては、単なる観光情報的地域情報の発信ではなく、研究の成果を含み、また、研究の発展のための基礎的データの提供という役割をも果たしうるような情報の組み立てを検討し、実現すること、さらに、現在情報のみならず時間軸を挿入し、歴史的要素を組み込んだ情報の発信構造を構築することなどが、あげられる。非文字資料の研究分野としては図像、景観・環境、民具、映像、身体技法などを統合することが、当初からの研究課題であったが、統合とは何をどのように統合するのかという点についてもさらに具体化することが求められている。

共同研究の分担

研究代表者 橘川俊忠
共同研究者 佐野賢治、田上繁、木下宏揚、津田良樹、安室知
研究協力者 小松大介、フレデリック・ルシーニュ

個別共同研究

1. 『マルチ言語版絵巻物による日本常民生活絵引』の編纂共同研究

共同研究の目的

神奈川大学21世紀COEプログラム「人類文化研究のための非文字資料の体系化」の中心課題の一つは、長年に亘って定評を得ている『絵巻物による日本常民生活絵引』(以下『絵引』)がより広く利用されるように英・中・韓国語を対比させたマルチ言語版を刊行することであった。COEにおいては、当初予定の全5巻のうち、 Multilingual Version of Pictopedia of Everyday Life in Medieval Japan, Vol.1/ Vol.2を刊行した。

本共同研究の目的は、3年後を目途にこの『絵引』Pictopediaの完訳を刊行することである。これをとおして、海外において、歴史・民俗学・人類学・文学など、様々の分野の研究者が日本の「生活文化研究」の参考にしてくれることを期待したい。

『絵引』の完訳・刊行作業の流れはおよそ次の通りである。
先ず、Pictopediaの第1巻と第2巻の刊行実績を前提として、解説文の英訳とともに、英語・中国語・韓国語の「multilingual」キャプションの作成作業を行っている。
翻訳作業においては、COEの際と同様、若手研究者を起用し、次世代の育成を視野に入れながら、「烏帽子」、「小袖」のようにすぐ英語にならない単語を説明するPictopediaの専用dictionaryの作成に着手している。

共同研究の分担

研究代表者 ジョン・ボチャラリ
共同研究者 金貞我、福田アジオ、クリスチャン・ラットクリフ
研究協力者 何彬、君康道、除東千、中井真木、アレクサンドル・マンジャン、李利

2. 関東大震災の都市復興過程とそのデータベース化、並びに資料収集

共同研究の目的

本研究は21世紀COEプログラムにおいて課題とした「環境に刻印された人間の諸活動」で実現させた「関東大震災・地図と写真のデータベース」をさらに充実させるとともに、データ更新を行う。

関東大震災後の「帝都復興」は、公共施設(社会基盤)の整備や民間建物の再建活動によって旧来の都市を一新した「帝都」空間をもたらし、また、人々の生活習慣に及ぶ社会的文化的変容をもたらした。こうした社会基盤とそこで営まれる生活についての実証レベルにおける研究はほとんど行われていない。そこで、新たな資料の発掘を心がけつつ研究の開拓を行う。

現在、東京都慰霊堂に収蔵されている関東大震災関係の未整理資料の目録化、豪商関係による震災におけるバラック建設と避難者収容事業の事例として三井本家の資料調査、その紹介と分析を進めている。

共同研究の分担

研究代表者 北原糸子
共同研究者 能登正人
研究協力者 高野宏康、川西崇行

3. 中国・韓国の旧日本租界

延焼しつつある漢口日本租界
漢口旧日本租界の現状
(手前の赤屋根は元同仁会病院)

共同研究の目的

戦前中国と朝鮮に置かれた日本租界(具体的には、中国では天津・漢口・杭州・蘇州・重慶など、朝鮮では仁川・釜山・元山)について、関連資料を集めるとともに可能な限り現地の調査を行う。それを通じて近代日本の中国、朝鮮への進出の実態を明らかにすることを目ざす。

併せて、かつて租界各地に居住した多くの日本人の生活体験を、聞き取りや当時の写真、絵ハガキ等の収集分析を通じて明らかにすることで、非文字資料による研究方法をこのテーマにおいても開拓することを目指す。
さらには、中国に置かれていた租借地や鉄道附属地などについての実態についても関心を広げて、租界研究を豊富化することを目指す。

共同研究の分担

研究代表者 大里浩秋
共同研究者 孫安石
研究協力者 貴志俊彦、冨井正憲、韓 東洙

4. 持続と変容の実態の研究-対馬60年を事例として

共同研究の目的

本プロジェクトは、社会や文化の持続と変容のダイナミックスに関する一般理論の構築を目指すものである。

その研究の第一段階として、具体的な事例研究を蓄積することからスタートする。一つの地域を一定の時間経過の中で集中的に観察・調査し、何が変化し、何が持続しているのかをとらえ、変化はどのような要因によって引き起こされ、持続はどのような条件の下に可能になっているのかを検討し、変化するものと持続しているものとの相互作用の仕方を明らかにすることを課題とする。

当面、長崎県対馬を事例研究の対象に取り上げる。対馬は、約60年前、九学会による総合調査が実施され、対馬の各集落に関する詳細な記録が残されている。また、高度成長をはさんだ、60年間の変化は、対馬においても当然大きなものがあったと予想されるが、離島であるためもあって、巨大開発などによる破壊的な影響を免れ、持続と変容の諸相を観察するために良好な条件を備えている。研究としては、写真・地図・図像・建築物・民具等の非文字資料に重点を置くが、それ以外の文字資料も含め、その両者をいかに総合するかという観点も十分意識しながらすすめていきたいと考えている。

共同研究の分担

研究代表者 橘川俊忠
共同研究者 津田良樹
研究協力者 藤永豪、本田佳奈